合奏法のアイデア 〜 ホルストのシャコンヌから(2)

合奏法のアイデア 〜 ホルストのシャコンヌから(2)

まず、前回の補足からです。

Step.2 中心軸を設定 でご説明したユニゾン・アンサンブルの基準となる中心音について、もう少しお話しします。

下のシャコンヌ主題をご覧ください。

3小節目と6小節目が、原曲と少し違っていますね。

これは、同小節の一拍目にある「倚音」という非和声音を取った形です。

旋律の骨格は、こうなっています。

F音(音階名ではファ)が

この曲の調(変ホ長調)の属音(音階の5番目の音)Bb音(音階名ではシのフラット)

へのジャンプ台(下行・上行)になっていることがわかります。

また、下の音列はシャコンヌ主題を構成する音階を示しており、導音(音階の第7番目の音で主音へ導く重要な音)がないことがわかります。

つまり、一番右のG音(音階名のソ)の次は、一番左のBb音(音階名ではシのフラット)のオクターブ上のBbとなるわけです。

この音列から見ると、F音は音階の中心に位置する音となっています。

従って、中心音としてはF音が適当かもしれません。

以上、蛇足ながらお話ししました。

それでは、第2回です。

目次

2. アクセント言語で演奏する

シャコンヌ主題が提示された後、金管群による8小節間の第1変奏に入ります。

上の楽譜の9小節目、アウフタクトからになります。

トロンボーンに移行したシャコンヌ主題に反行する形で、コルネットが優雅な対旋律を奏でます。

いや、見事に「反抗」していますね。

ここで、2つのことに注目してみます。

1. シャコンヌ主題はアウフタクト、反行する対旋律はシンコペーション

2. コルネットの旋律は、上行し、下行する「山」の稜線ラインになっている

1. シャコンヌ主題はアウフタクト、反行する対旋律は掛留音によるシンコペーション

まず、小節の中における3拍子のエネルギー循環は

① 強拍 2 弱拍 3 弱拍 となります。

また3拍目、入りは弱拍ですが、①に入るための流れ込むようなエネルギーがそれに続きます。

つまり、シャコンヌ主題は常に 3 → ① という「強拍に向かう」アクションを起こします。

一方、対旋律は強拍が1拍前(つまり3拍目)に飛び出ています。

今、上の楽譜をご覧ください。

対旋律の構造音を係留せずに書くとこうです。

しかし、この形ではシャコンヌ主題の3→ ①というエネルギーに対旋律が拮抗できず、やや凡庸な印象になってしまうとホルストは感じたのだと思います。

従って、アッパー・カットのように反行形を食い込ませたのです。

ここで使われているのは「掛留音」です。

また、本来弱拍である3が先取りされて強拍になっています。

従って、コルネット奏者は軽いアクセントをつけて演奏する必要があります。


英語で「1」はone、アクセントは頭にあります。

また、英語圏の人々が3拍子を数える場合、One two threeとなるでしょう。

そのOneが、シンコペーションで先取されていますので、上の楽譜 1小節目3拍目にアクセントがつくことはもうお分り頂けたと思います。

さて、もう一つお話ししますと

シャコンヌ主題は、3 → One two three と流れているということです。

当たり前じゃないか!

そうです。

当たり前のことなのですが、演奏の現場ではよく起こってしまう困った問題がここにあります。

カウンター・パートのコルネット奏者達は、 Three / one two three / oneと感じて演奏します。

それはそれで良いのですが、2小節目の1拍目(強拍)を感じない・聴かないのは、アンサンブル上良くない場合が多いのです。

ここは、 Three / (one) two three / one と3拍子の持つ小節内のエネルギー循環をいつも感じながら演奏すべきです。

和声上から見ると、この3拍目は非和声音(掛留音)です。

9小節目の1拍目で非和声音になり2拍目に解決されるのですが、コルネット奏者が強拍を意識することによって、その変化が明確になり響きの充足も生まれます。

シンコペーションがなく、また強拍へのモチベーションのない演奏を想像してみてください。

いかがでしょうか?

音楽演奏に、正しいとか間違っているということはないと思います。

ただ、より良い演奏というのはあると思います。

「西洋音楽は、アクセント言語圏の音楽である」                                     

さて、ここで気をつけたい大切なことがあります。

西洋音楽は、アクセント言語圏の音楽であるということです。

言語学によりますと、

アクセント(accent)とは《語や文の一部を他の部分より音韻的・音声的に際立たせること》であり、

アクセントには、「英語などに見られる音の強弱の差を用いるアクセント」と

日本語などに見られる「音の高低の差を用いるアクセント」があるとされています。

言語が音楽に与える影響は大きいと私は思います。

日本語は、どちらかというと強弱系のアクセントが少なくイントネーションを重視する言葉なのに対し、英語やドイツ語などは非常に明確な強弱アクセントを持った言葉です。

従って、西洋の作曲達の書いた音楽の中には、明確に強弱系の言語アクセントが内包されています。

これはいつも考慮して演奏しなければならないのではないかと思います。

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