合奏法のアイデア 〜 ホルストのシャコンヌから(1)
先日私は、杉並区荻窪にある杉並公会堂で開催された、ある吹奏楽コンサートに行ってきました。
実は荻窪は、私が上京し大学時代住んでいた街なのでとても懐かしい街なのです。
ですので、当時アルバイトしていた西荻の喫茶店にまで行ってみたり、住んでいた上荻周辺を散策したりして開場までの時間を過ごしました。
杉並公会堂は2003年に改築され、現在は瀟洒なホールになっています。昔の面影はなく、また当時よく通ったホール前のレコード店「新星堂」も現在はありません。
帰去来する想いを胸にホールに入り、コンサートを聴いたのですが・・
今回は、当夜も演奏されたホルストの1組についてです。
不朽の名曲 手強し!!
「ホルストの1組」、吹奏楽をやっていらっしゃる方ならこれでお分かり頂けると思いますが、
正確にはイギリス近代の作曲家、G.ホルスト(Gustavus Holst)が作曲した「吹奏楽のための第1組曲」(Suite for Military Band Op.28)のことです。
ホルストはもう一曲「吹奏楽のための第2組曲」も作曲していますが、二曲ともに吹奏楽史に残る不朽の名曲として知られています。
さて第1組曲ですが、3つのエピソードで構成された約11分ほどの作品です。
曲目解説についてはここでは割愛させて頂きますが、個人的な体験を申し上げますと、実は今までにあまり良い演奏を聴いたことがありません。
演奏上のグレード(技術的な難易度)としては、決して高くはない作品です。
技術的には、中学校のスクールバンドの子供達でも演奏できるでしょう。
しかし一方で、その単純で明快、かつ整理された作曲法で書かれたスコアを音楽的に演奏することは至難の技だと思われます。
音楽的な内容の深いシンプルな作品なだけに、高い表現のスキルが要求される曲なのです。
それでは、第1曲「シャコンヌ Chaconne 」について、美しい合奏や音楽的な表現を行うための、いくつかのアイデアを書いてみたいと思います。
1. ユニゾンは音色のブレンドが命
シャコンヌの冒頭です。
テューバとユーフォニアム(またはバリトン)などが、優美なシャコンヌ主題を提示します。
「シャコンヌ」とは3拍子の舞曲で、低音部パートが繰り返すテーマ上で、他の声部や楽器が装飾的に変奏を加えていく形式、または書かれた楽曲のことを言います。
同形式のものに「パッサカリア」があります。
ホルストは、ここでシャコンヌ主題を15回出現させ、13回の変奏を行っています。
その技術は誠に見事で、単純な主題を使っているにもかかわらず、変化に富みかつ違和感のない、全体として統一感が緻密に計算された作品として仕上げられています。
Step.1 まず各パートの均一性を作る
ユニゾン(Unizon)とは、音程差のない同じ度数、またはそのオクターブ(通常は1オクターブ)上下での演奏の事です。
同じ旋律を複数の奏者または歌手で演奏しますので、微妙な音程差や固有倍音の違いから響きが豊かになるコーラス効果が得られます。
「最も美しく強力なハーモニー」といわれる所以です。
さて、ここでホルストの書いたユニゾンを見てみましょう。
ここでまず問題なのが、管楽器の中で音程感を聞かせることが最も難しいテューバが使われていることです。まずテューバ・パートが美しく歌えるかどうかがこの部分を決定します。
私見では1 PLAYERで良いと思いますが、広がりが欲しい場合は複数奏者になりますね。
最初に、この組曲全体を支配する2度音程と5度音程をしっかり作ります。
その後に、3度音程(2〜4小節目)をチェックします。
ここではメッゾ・フォルテ位の楽な音量で、良い音程と横に流れる推進力を作り、パートが均一になっているかを確認します。
なお、ユーフォニアムなどの他のパートも、同じく整理しておきます。
Gustav Theodore Holst, Herbert Lambert (1881–1936)
Step.2 中心軸を設定
各パートが均一に響き出したら次にユニゾンを作るわけですが、その前にやっておきたいのが中心軸の設定です。
せっかく良い音程感で演奏できていても演奏は生き物です。奏者のコンディションや本番などの緊張から、せっかくの良い響きが狂ってしまうことが考えられます。
よって、この8小節のシャコンヌ主題の中心となる音を奏者に認識してもらっておく方が良いのです。
選択肢はいくつかあると思いますが、私は使用頻度の高いBb音かF音をお勧めします。
この音を中心に、良い(正しいとは少し違うのですが、音楽的に最も美しいという意味です)音程関係をそれぞれが作っておけば、その都度修正が可能になります。
Step.3 倍音を生かす
さて、ユニゾンの形成です。
ここでホルストの要求したダイナミクス、ピアノは至難の技です。
まずは、奏者がリラックスして吹ける音量でやってみます。
1. テューバ・パートのみが演奏。他のパートの奏者は「倍音を聴き取る」練習をします。
2. 次に一緒に演奏しますが、上部パートはテューバ・パートを聞くことを優先します。
従って、音量 はテューバ・パートを超えてはいけません。また、自分もテューバを吹いているつもりで同化します。
3. サウンドが収束せず豊かに広がるようになってきたら最後に「フレーズへの共感」で仕上げます。
つまり「歌うように吹く」ということです。
音楽の演奏とは、「共感」だと思います。
作曲者が内的に歌った音楽を自分の中で再度歌うためには、共感しなければ真実になりません。
よって、演奏者が最も心がけなければならないことは、作曲者や作品への「共感」なのです。
その逆の「無関心」からは、本当の音楽は決して生まれてこないと私は思います。
いやそんなことはないよー。
そうおっしゃるかもしれません。
しかし、残念ながら日本の吹奏楽界にはそういう演奏が結構多いと私は思います。
合奏法のアイデア 〜 ホルストのシャコンヌから 次回は「アクセント言語で演奏する」です。
カテゴリ: 2014年12月